TC研究会で 今年も”ムーブメントを伴う筋膜”へのアプローチを担当させてもらいます、ロルフィングプラクティショナー(ロルファー)の宮井です。
今や”筋肉を包む膜”や”全身を包むボディースーツ”といったイメージですっかりおなじみとなった”筋膜”を中心に”ボディーワーク”や”ロルフィング”について、数回に渡りコラムを連載していきます。
初回である今回は筋膜の基本的なところを確認してみます。さて、本当に筋膜は”筋肉を包む膜”、”全身を包むボディースーツ”なのでしょうか?
筋膜の語源
筋膜は英語でFASCIA と訳されています。FASCIA はラテン語で”帯、包帯、包まれている”を意味する Fascia を語源にしています。ですので、元来FASCIA (=筋膜) には”筋”や直接”膜”という意味はありません。
本邦では”FASCIA”を”筋膜”と訳すため、”筋肉の膜”というイメージが先行しいるように思います。
では、専門家は筋膜をどのように捉えているのでしょうか?
筋膜の定義
実は筋膜にはコンセンサスが得られるような明確な定義が確立されていないのです。それ故に混乱を招く原因にもなっているのが筋膜という用語の現状なようです。ここでは無数に発表されている筋膜の定義の中からいくつかご紹介していきます。
Steadmans Medical Dictionary 2006
皮下で身体を包む線維組織のシート。また、個々の筋や筋群を取り囲み、分ける各々の層や層のグループ。
Grays Anatomy 2008
肉眼で確認できる結合組織の集合体。その構造は様々だが、通常コラーゲンが織り込まれ、まれに腱や腱膜にみられるように平行で密に存在する。
Terminologia Anatomica 2011
鞘状、シート状、もしくは他の解剖可能な結合組織の集合体。筋肉の鞘だけでなく内臓の外層やそれに関連する解剖可能な部位を含んでいる。
などがあります。
ごく最近のものではSchleipらが筋膜は
“身体に浸透するコラーゲンを含む柔部組織であり、疎性もしくは密性の線維性結合組織の三次元連続体から構成されるシステム”
であると述べており、”腱、靭帯、関節包、神経上膜、髄膜、骨膜、筋内の結合組織”なども筋膜システムに含まれているとしています。
また、Standringも
“筋膜は科学的に明確な解剖学的表現というより、一般総称的な表現である”
と述べていることから、現在では筋膜とはある単一の組織を指すというより”結合組織の複合体”であり、膜その物というより”膜”、”ひも”、”網”などによる三次元的な組織システムと捉える流れのようです。
もっと簡単に言うと「膜だけでなく、様々な形でからだ全体に広がっていて、色々と役に立ってますよ」ということです。
身近になった筋膜
筋膜に着目してアプローチすることが馴染み深くなりつつある昨今ですが、長い間見逃されていた組織でもあるのです。というのも筋膜は”役に立たない邪魔な組織”として解剖の段階で骨や筋など他の組織を綺麗に取り出すために捨てられていたのです。また、その解剖をもとに作られた”美しい”解剖書で我々は学んでいたからです。
しかし、21世紀に入ると筋膜の重要性を示す研究発表が次々に行われ、筋膜は
“整形外科科学のシンデレラ”とも表現されるようになりました。
さらに、
書籍「アナトミートレイン」(トーマス・マイヤース)が発表されると施術家などの間でグッと筋膜への注目度が高まったように思います。。アナトミートレインでは筋膜のつながりを7つのラインで紹介し、漠然と感じていた、体のつながりを分かりやすく示してくくれています。
【新品】【本】アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線 Web動画付 トーマス・W.・マイヤース/著 板場英行/訳 石井慎一郎/訳
|
ここ数年はメディアでも頻繁に取り上げられた事から一般の方の認知度も飛躍的に高まったわけです。
まとめ
ここで紹介した筋膜は皆さんの筋膜像と同じだったでしょうか?
筋膜はボディースーツや筋肉を包む膜としてだけで無く、からだのすみずみにまで浸透し、臓器・筋・骨・神経を生命体として一まとまりに統合している、という観点が身体を扱う我々には必要だと感じます。
物事の捉え方やイメージが変わると、きっと患者さんやクライアントの見えかた、アプローチが変わってくるのではないかと思っています。